大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1669号・昭33年(ネ)1647号 判決

そこで進んで本件損害の賠償額について考えてみるのに、第一審被告が張替に対する本件土地の売却によつて右土地に対する第一審原告の使用収益を不能にしたのは、結局第一審原告の右土地に対する賃借権を喪失せしめるたに帰するものというべきである。従つて第一審原告は右第一審被告の債務不履行により右賃借権の価格に相当する損害を蒙つたものというべきであり、少くとも右債務不履行当時における右賃借権の時価相当額は通常生ずべき損害としてこれを賠償すべきである。第一審原告はこの点について、第一審口頭弁論の終結時を選んでこの時を基準として、右当時における賃借権の時価相当額の損害の賠償を求めるのであるが、右損害は特別事情による損害と認めるのが相当であつて、第一審被告において右債務不履行の当時において、その不履行時に比べ右弁論終結時における本件賃借権の価格が、現実騰貴したように騰貴すべきことを予見し、又は予見し得べかりし場合に限つてこれを請求し得るにすぎないものと解しなければならない。そして本件における前示債務不履行の行われた昭和二八年九、十月の当時において、本件土地の地価及びその賃借権の価格が漸時騰貴の趨勢にあつたことは、これを否むべくもない事実であり顕著な事実というべきであろうが、果してどれ程の騰貴率を示すかの点になれば、特別の智識経験を持つ者は格別、通常人としては到底これを予測し得なかつたものと認めるのが相当であつて、本件において第一審被告が右のような特別の智識経験を持つているとの事実は何等これを認むべき資料はない。のみならず、原審鑑定人川口立夫の鑑定の結果によれば、同鑑定人は本件第一審弁論の終結時に近い昭和三二年五月二七日当時における本件賃借権の価格を、第一審原告主張の通り、金四、一九四、一一二円(坪当り三二、二五〇円)と鑑定し、本件債務不履行の当時と認むべき昭和二八年九月三〇日当時の同様価格を金二、二二二、八一四円(坪当り一七、〇九二円)と鑑定して、その比率を一〇〇対五三とみるのであるが、右のような騰貴率を認める理由としては、(イ)一般地価の騰貴の外、(ロ)六大都市平均に比し東京都の地価増加率の多いこと、(ハ)新地下鉄開設期待等本物件の特殊性による増加、(ニ)更地のままの借地残存期間短縮による減少、(ホ)昭和三二年五月一五日建築基準法における建築面積と敷地面積の割合が改正されたため、本物件上に耐火構造の建物を建築する場合の建築面積は従前に比し約一割増加したことによる土地の利用価値若干の増加、(ヘ)最近土地賃借権の譲渡を認めようとする法律改正の気運があり、これにより借地権価格に騰貴の徴候が見えることによる若干の増加の諸点を挙げており、右理由のうち(ハ)の点は昭和二八年九月当時は未確定の状態であつたとするのであつて、また右(ホ)及び(ヘ)の点が右昭和二八年の当時においては、一般に予見し又は予見し得べかりしものでなかつたことは、ことの性質上当然のことと解すべきであるから、右の諸点から考えても、右鑑定にいうような騰貴率を示すことを、本件債務不履行の当時において第一審被告が予見し、又はこれを予見し得べかりしものとは到底これを認めることはできない。

そこで第一審原告の本訴請求中、右鑑定の結果によつて本件債務不履行時における本件賃借権の価格と認むべき坪当り一七、〇九二円、一三〇坪五勺について合計金二、二二二、八一四円六〇銭(原判決がこれを二、二二二、八一四円六五銭としたのは誤算と認める)及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金の請求はこれを正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当としてこれを棄却すべきである。ところで第一審原告は右賠償額に対する遅延損害金を本件訴状送達の日の翌日以降これを求めるのであるが、第一審原告は本訴において当初第一審被告に対し、本件土地の引渡とその使用収益をせしめることを請求し、若し第一審被告において右義務の履行をすることができないときは金三〇〇万円を支払えとの請求をし、本件訴状は右請求の趣旨を記載して第一審被告に送達せられたものであること本件記録に徴して明かなところであり、従つて右訴状の送達当時にあたつては右金三〇〇万円の請求は確定的なものではなくして予備的なものであり、しかも右請求は現在右金員の支払を求めるというのではなくして、将来本請求にかかる義務の履行ができない場合についてその履行を求めるというにすぎないものというべきであるから、右訴状の送達によつて第一審被告が右金三〇〇万円(本判決で認容する二、二二二、八一四円六〇銭)について直ちに遅滞に附せられるものとはこれを解することはできない。そこで右認容の金二、二二二、八一四円六〇銭に対する年五分の割合による損害金の請求は、第一審原告が本件の損害賠償額として金三〇〇万円を確定的に請求した原審第五回口頭弁論期日(昭和三二年三月九日)の翌日以降これを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきである。

(薄根 村木 山下)

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